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建造物の評価と保存活用ガイドライン

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社団法人日本建築学会のHPに、「建造物の評価と保存活用ガイドライン」が載っていました。今年の3月31日に出されたもののようです。素晴らしいガイドラインなのですが、PDFデータのため多くの人の目に触れる機会を逸しています。ここに、テキスト化した全文を掲載したいと思います(英文訳省略)。

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建造物の評価と保存活用ガイドライン

社会の営みのなかで人々が建設してきた建造物には、さまざまな価値が込められている。当初、機能的有用性によって計画された建造物は、やがて長期間使用されつづけるなかで、歴史的価値と文化的価値をもつようになってゆくし、それらの存在はわれわれの生活をとりまく重要な景観要素ともなる。

また建造物は、それを生み出した人々の理想が込められた貴重な社会資産であり、そこにはそれをつくりだすための技術・芸術的叡知が込められている。建造物こそはある時代の到達点を示すかけがえのない証人であり、最大の記憶装置といえるものなのである。こうした建造物を長く使いつづけることは、われわれの文化を継承し、次代へつなげる大切な行為といえよう。

建設活動が地球の環境に与える影響は大きく、多大なエネルギーが注がれている建造物を取り壊すことは、地球環境に大きな影響を及ぼす行為である。建築が短寿命であることは、単に社会資産の形成が遅れるのみならず、地球温暖化の原因である二酸化炭素排出、森林の破壊や大量の建築廃材発生などの、極めて深刻な問題を生んでいる。建造物を保存活用して長寿命化をはかることは、建設廃棄物の減少をもたらし、地球環境問題に対して重要な貢献となる。

建造物の保存活用を積極的に進めることは、われわれの技術・芸術・文化にとっても、地球環境にとっても大切なことといわねばならない。

建造物がもつさまざまな価値を多面的に理解し、それらの価値を将来にわたって高め、保存活用してゆく方途を求めることは、これからの社会に対して日本建築学会が果たすべき責務と考え、そのためのガイドラインをここに提唱する。

2007年3月31日


五つの基本的価値

(1)歴史的価値
建造物は、人類の活動の所産として、広く歴史のなかで価値を持っている。その価値とは、建設年代が古いことによって生じる価値を基本とし、現在までの時間的経過によって加えられたさまざまな価値を含む。そこには、伝統・歴史的様式が継承されており、社会のできごとの痕跡や個人の記憶が留められている。建造物が、巨大な記憶装置となっているところに見出される価値である。

(2)文化・芸術的価値
建造物は、人々の構想力と想像力の所産であり、そこには、社会と人々の生活が表現されている。それこそが、建造物の持つ文化・芸術的価値である。文化的価値とは、建造物に込められた生活や社会の姿に宿るものであり、われわれの社会総体の到達点を示すものである。芸術的価値とは、その時代の新しい美や表現、成熟した空間などの軌跡に宿るものである。

(3)技術的価値
建造物には、構造・材料、構法・施工、環境・設備に関する技術が用いられている。技術の発展は、過去の技術の積み重ねと技術開発によって生じるものであり、それぞれの建造物で用いられた技術の総体によって今日の技術が存在している。したがって、それぞれの建造物が持つ技術的な特徴を評価することで、技術の変遷と発展における建造物の位置づけを図り、価値を把握することができる。例えば構造技術では、古くから発展してきた木造技術、近代以降における煉瓦造、石造技術、鉄骨造と鉄筋コンクリート造技術の導入、さらに、建造物の耐震・耐風、耐火、高層化、大スパン化に伴う技術、などである。

(4)景観・環境的価値
建造物には、その周囲の景観や居住環境との関係で見出される価値がある。建造物が周囲の景観に配慮し、良好な居住環境の形成に寄与している点を評価して得られる価値である。例えば、建造物が街並みと調和し、あるいは、ランドマークとしての役割を果たしていることなど地域の景観形成に寄与していること、日照など物理的な居住環境の確保やアメニティの創造に果たしていることなどである。そのような建造物が保存活用され続けていくことは、景観・環境にとって極めて重要である。

(5)社会的価値
建造物は、地域社会の活性化やコミュニティの成立にとって重要な社会資産である。すなわち、あらゆる建造物には公共性があり、生活の基盤施設としての価値をもつ。建造物の用途・機能が社会に与える影響や、社会に対して果たしている役割に着目して建造物を評価する。さらに、地域社会の変化や地域の近代化のなかで建造物が果たしてきた役割も同じ視点から評価される。加えて、このような価値を持つ建造物を保存活用し続けることは、地球環境問題の解決に対する重要な貢献となる。


建造物の保存活用にあたっては、先ず、その建造物の価値を明確にしなければならない。そのため、この保存活用ガイドラインの五つの基本的項目に照らして、その建造物の特徴を明確に把握し、評価することが必要である。そこで確認された特徴こそ、その建造物の固有の価値なのである。そのため、保存活用にあたっては、その価値を尊重し、新しい計画においてもその固有の価値を失わないように注意し、改修にあたってもその価値がより明快に維持され、社会に享受される計画性が求められることになる。

日本建築学会では、この保存活用ガイドラインに準じた建造物の評価、さらには、その保存活用計画の立案への助言など、専門家が積極的に協力したいと考えている。

*ここでいう建造物とは、その存続が危ぶまれる状況にある保存すべき建造物である。


社団法人 日本建築学会
〒108-8414 東京都港区芝5-26-20
03-3456-2051
http://www.aij.or.jp/aijhomej.htm

歴史的建造物保存活用ガイドライン
検討特別調査委員会

委員長
鈴木博之(東京大学大学院教授)

幹事
内田青蔵(埼玉大学教授)
小林正美(明治大学教授)

委員
兼松紘一郎(兼松設計)
佐々木睦朗(法政大学教授)
長尾 充(文化庁)
西澤泰彦(名古屋大学大学院助教授)
初田 亨(工学院大学教授)
藤岡洋保(東京工業大学大学院教授)
藤田香織(首都大学東京准教授)
藤森照信(東京大学大学院教授)
和田 章(東京工業大学大学院教授)

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